機械学習を使った検証を頼んだ。しばらくして、チャットにこう返ってきた。
「調べました」
それだけである。数字もなければ、結論もない。何が分かったのかが一行も書かれていない。別の依頼では「完了しました」だけが返ってきたこともある。
作業としては、たしかに終わっている。嘘をついているわけでもサボったわけでもない。それでも、こちらが受け取ったものは何もない。
目次
- 頼んだのは作業ではなく、検証だった
- 「調べました」には、いちばん大事なものが入っていない
- 正直に書くと、かなり頭に血が上った
- 返信せずに放置して、頭を冷やした
- レポートは書けた。書けないわけではなかった
- それでも、私はもう指摘しない
1. 頼んだのは作業ではなく、検証だった
検証や調査という仕事には、他の作業と決定的に違うところがある。
手を動かすこと自体は目的ではない。何が分かったのかが分かって初めて、依頼した意味が発生する。実験を回したという事実には価値がなく、回した結果として何が言えるようになったのかが成果物である。
機械学習を使った検証なら特にそうだ。試した条件、出た数値、その数値をどう読んだか、次に何を確かめるべきか。そこまで来て、ようやく依頼した側が次の判断に進める。
その一番大事な部分を丸ごと抜いて、「調べました」だけが届いた。
2. 「調べました」には、いちばん大事なものが入っていない
「調べました」と「完了しました」は、報告のように見えて報告ではない。
伝えているのは、自分の側のタスクが終わったという状態だけである。作業者の視点から見た完了通知であって、依頼した側が知りたいこととは一致していない。
こちらが待っていたのは、期待した性能が出たのかどうか、出なかったならどこで頭打ちになったのか、そのデータで続ける価値があるのか、といった判断材料だ。それを受け取るために依頼している。
つまり、彼の中では仕事が終わっていて、こちらの中では何も始まっていない。同じ案件を見ているのに、完了の定義がずれている。
3. 正直に書くと、かなり頭に血が上った
きれいな話にしても仕方ないので書いておくと、あの一行を見たときはかなり頭に血が上った。
これだけ時間をかけて、返ってくるのが四文字か。何のために待っていたのか。そういう類の感情である。マネジメントとしてどうかと言われれば良くはないが、実際に湧いたのはそれだった。
しかも厄介なのは、相手には落ち度の自覚がまったくないところである。頼まれたことをやって、終わったと伝えた。本人の中では手続きが完結している。こちらだけが宙ぶらりんで待っている。
4. 返信せずに放置して、頭を冷やした
その場では返信しなかった。しばらく放置した。
あの状態で書いていたら、確実に感情の乗った文面になっていたと思う。「これで報告のつもりか」くらいのことは書けてしまうし、書けば相手は萎縮する。萎縮した相手から、次に上がってくる報告の質が上がるわけがない。
頭が冷えてから送ったのは、一行だけだった。
「報告MTGを設定して、報告してください」
理由も説明も、良し悪しの評価も付けなかった。淡々とそれだけである。感情を抜いた結果として短くなったのだが、結果的にはこれでよかったと思っている。何が足りないかを説明しようとすると、どうしても責める形になる。場を設定させて、そこで話させる方が早い。
指摘の伝わらなさについては「これくらいでいい」を下限ではなく上限だと思っているでも書いたが、こちらの意図を丁寧に説明するほど、伝わらなかったときの徒労が大きくなる。短く事実だけを渡す方が、こちらの消耗は少ない。
5. レポートは書けた。書けないわけではなかった
報告してくださいと伝えたら、レポートが出てきた。
これが今回いちばん考えさせられた点である。書けないわけではなかった。求められれば、ちゃんとした形のものを用意できる。能力の問題ではなかったということだ。
では何が問題だったのか。求められていないと思っていた、という一点に尽きる。検証を頼まれた時点で報告までが仕事に含まれている、という前提が共有されていなかった。彼の中の仕事の範囲は「調べる」で閉じていて、「伝える」は別の依頼だと認識されていた。
同じ構図は前にも見ている。定例報告は毎回きちんと出ていたのに、納品物を一度も見ていなかったで書いたのは、最終的に何を出すのかを見ないまま作業を積み上げていた話だった。あれもこれも、能力ではなく、仕事がどこで終わるのかの線の引き方がずれている。
言われた範囲を、言われた通りに、期日までにやる。それ自体は真面目な態度である。ただ、その範囲を自分で狭く引いてしまうと、真面目にやるほど相手の期待から離れていく。
6. それでも、私はもう指摘しない
この件について、私はもう指摘するのをやめた。
言えば直るとは思っていない。今回もレポートは出てきたが、それは「報告しろ」と言われたから出てきたのであって、次の依頼で自発的に報告が付いてくるとは思えない。同じことをまた言うことになるだろうし、そのたびに私が頭を冷やす時間を作ることになる。
だから、諦めた。必要なときに「報告MTGを設定してください」と言えばいいと割り切った。相手を変えるより、こちらが毎回そう言う方が安上がりだという判断である。
前向きな結論ではない。上司としては指導を放棄しているとも言えるし、そう言われれば返す言葉はない。ただ、直らないものを直そうとして消耗し続けるより、運用でしのぐ方が案件は回る。ここは割り切っている。
一つだけ、報告する側に立つ人に向けて書いておく。「調べました」「完了しました」は、こちらには何も届いていない。何が分かったのかを一行足すだけで、受け取る側の印象はまったく違う。数字でも、結論でも、うまくいかなかったという事実でもいい。分からなかったなら、分からなかったと書けばそれが報告になる。
技術力とは別のところで仕事が詰まるパターンについては、最後にやり直しになる人は、最初に納品物の形を見ていないにまとめてある。伝え方そのものでつまずいている自覚があるなら、それって自分がコミュ障?意図が伝わらないエンジニアが陥る落とし穴の方が近いと思う。