トレンドを扱った記事は、書いた瞬間から古くなっていきます。それを承知で書くなら、「今こういうものが流行っています」を並べるより、言われていることのうち自分の現場で実際に起きたのはどれかを書いた方が、後から読んでも使えるだろうと思いました。
なので、この記事はその形にしています。私はAI関連の受託開発をやっている小さな会社でプロジェクトを見ている立場で、以下はその範囲での実感です。大規模なSIerや自社サービスの会社では、また違って見えるはずです。
(この記事は2025年6月時点の状況をもとに書いています。ツールや手法の状況は変わるので、そこは前提として読んでください。)
目次
1. アジャイルは定着したが、負担は減らなかった
まず、実際に変わった側から書きます。
スコープを事前に全部確定させてから線形に計画を引く、という進め方は、私の周りではほぼ見なくなりました。要件が動くことを前提に、短い区切りで進めて、区切りごとに方向を調整する。この形が普通になっています。
機械学習の案件では、そもそも最初から全部を決められません。データを見るまで何ができるか分からないので、必然的にこうなります。この意味では、手法を選んだというより、選ばざるを得なかったという方が近いです。
ただ、正直に書いておくと、マネージャー側の負担は減っていません。むしろ増えました。
計画が動くことを前提にすると、動くたびに説明が必要になります。なぜ変わったのか、変わった結果どうなるのか。以前なら最初に一度合意すれば済んだ会話が、区切りごとに発生します。私の体感では、顧客とのやり取りにかかる時間は明確に増えました。
「アジャイルにすれば柔軟になって楽になる」という説明を見かけますが、少なくとも私の経験では、柔軟さは手に入りましたが楽にはなっていません。判断の回数が増えるので、判断する人の負荷はむしろ上がります。
2. AIで実際に楽になったのは報告作業だった
AIの活用についても、期待されている用途と、実際に効いた用途は違いました。
よく挙げられるのは、プロジェクトのデータを解析して遅延やコスト超過の兆候を予測する、という使い方です。これは私の規模では機能していません。理由は単純で、予測に足るだけの過去データがないからです。年に数件しか動いていない案件の履歴から、統計的に意味のある予測は出てきません。
代わりに効いたのは、もっと地味なところでした。
- 議事録の要約と、決定事項の抽出
- 定例向けの進捗サマリの下書き
- 顧客向け説明資料のたたき台
つまり、判断ではなく文章を作る作業の方です。これらは元々かなりの時間を使っていた部分なので、実感としては大きい変化でした。
ただし、空いた時間が自動的に良い判断に変わるわけではありません。報告書を書く時間が減ったぶん、別の作業が入ってきただけ、という月も普通にあります。ツールが作るのは時間であって、その使い道は結局こちらの問題です。
3. 言われているほど変わっていないもの
一方で、トレンドとして挙げられるわりに、私の現場ではあまり動いていないものもあります。
サステナビリティを評価軸に入れる話。 考え方としては理解できますし、大企業の案件では要件に入ってくることもあると聞きます。ただ、私が関わる規模の受託案件で、これが実際の判断を変えた場面はまだありません。書かないでおくと嘘になるので、そのまま書いておきます。
分散チームと文化的多様性の話。 リモートで働く前提にはなりましたが、それは場所の話であって、チームの構成そのものはそれほど変わっていません。私の場合、リモート化で一番変わったのは、雑談の中で拾えていた「なんとなく怪しい」という情報が入ってこなくなったことでした。これはトレンドの話というより、単純に困っている点です。
ツールの入れ替え。 新しいプロジェクト管理ツールは次々に出ますが、乗り換えるコストの方が大きいので、結局は使い慣れたものを使い続けています。ツールが解決する範囲と、しない範囲についてはITプロジェクトマネジメントの基本知識と実践方法に書きました。
4. 変わらなかったものの方が、たぶん本体
ここ数年で手法もツールも変わりましたが、私が実際に失敗した理由は、あまり変わっていません。
完了の定義が揃っていなかった。リスクに気づいた人が言い出せなかった。予算を見ていなかったせいで技術判断を間違えた。どれも手法とは関係のない話です。アジャイルにしても、AIを入れても、これらは自動的には解決しませんでした。
なので、トレンドを追うことの意味は、選択肢を知っておくことにあると思っています。何ができて何ができないかの当たりがついていれば、必要になったときに選べます。逆に、追っていること自体が価値を生むわけではありません。
これから求められる力として挙げられるのは、たいてい「全体を見て方向を決める力」「組み直せる柔軟さ」「伝える力」といったものです。これは10年前から言われていることとほとんど同じで、たぶんこの先も変わりません。変わらないから基本と呼ばれているのだと思います。
5. まとめ
私の現場で実際に起きた変化と、起きなかった変化を分けると、こうなります。
- 起きた:計画が動くことを前提にした進め方が普通になった。ただし判断の回数が増えたので、マネージャーの負担は増えている。
- 起きた:AIが文章を作る作業を肩代わりするようになった。予測や判断の支援はまだ機能していない。
- 起きていない:サステナビリティが実際の判断を変えた場面はまだない。
- 変わらない:失敗する理由は、完了の定義、情報が上がってこないこと、予算を見ていないこと。手法では解決しない。
トレンドの記事を書いておいて言うのも何ですが、新しい手法を追うより、変わらない部分を固めた方が失敗は減ります。手法は選択肢を増やしてくれますが、選択肢が増えても判断の質は上がりません。
土台になる部分はITプロジェクトマネジメントの基礎とその重要性にまとめています。この役割自体をどう続けていくかはプロジェクトマネージャーとしての成長:IT業界でのキャリアパスとスキル開発を参照してください。