海は、私たちの目には静かに広がる存在ですが、その内部では常に大きな変動が起こっています。近年、気候変動や異常気象との関係で「海の状態」に注目が集まるようになりましたが、それを実際に“見て”理解するのは簡単なことではありません。OceanGraphは、そうした海の変化を視覚的にとらえ、誰でも手軽に海洋観測データを扱えるようにするためのWebアプリケーションです。本記事では、その概要と可能性をご紹介します。
目次
- はじめに 〜「海を知る」ことの大切さ〜
- Argoフロートとは何か?
- OceanGraphとは?
- 主な機能の紹介
- データの信頼性と利便性
- 活用シーンと可能性
- 最後に:誰でも海洋データにアクセスできる時代へ
はじめに 〜「海を知る」ことの大切さ〜
私たちが暮らすこの地球の約7割は海に覆われています。海は地球の気候を左右し、生態系を支え、そして私たちの日々の生活とも密接に関わっています。近年では、異常気象や海洋汚染、魚資源の減少といった課題に直面する中で、海の変化を「見える化」し、理解することの重要性がますます高まっています。
そのような中で、今回開発したのが「OceanGraph」というWebアプリケーションです。これは、誰でも手軽にArgoフロートという自律型海洋観測機器のデータを検索・可視化・分析できるプラットフォームであり、研究者はもちろん、教育現場や海に興味を持つ一般の方々にとっても有益なツールとなるようにしました。
Argoフロートとは何か?
Argo(アルゴ)フロートとは、海中を自律的に浮沈しながら、定期的に水温・塩分・水深(圧力)などを観測するセンサーを搭載した観測機器です。2025年現在、世界中の海に約4000台が配備されており、これらのデータは無料で公開されています。

過去、広範囲かつ継続的に海洋データを得ることは困難でしたが、Argoの登場により海洋観測がまるで「気象衛星」のように常時稼働する時代が訪れました。これらのデータは、気候変動の研究、漁業資源の管理、さらには気象予測の精度向上などにも寄与しています。
OceanGraphとは?
OceanGraphは、このArgoデータを最大限に活用するために開発されたWebプラットフォームです。特別なソフトウェアや知識がなくても、ブラウザさえあれば誰でもアクセスし、インタラクティブな検索や可視化が可能です。

直感的な操作で指定した地域や期間のArgoフロートを検索でき、フロートの軌跡の確認や時系列鉛直断面図の表示が行えます。さらに、サインインすることで高度なプロファイル分析やクラスタリング機能も利用でき、学術的な分析や教育にも強力なツールとなります。
主な機能の紹介
OceanGraphでは、ユーザ登録なしでもフロートの検索や軌跡の表示、鉛直断面図の閲覧といった基本機能をご利用いただけます。さらにユーザ登録していただくことで、検索期間の拡張やプロファイルの可視化・保存、T-S図やクラスタリングによる高度な分析機能、データや画像のダウンロードなど、より多彩で専門的な機能が使用できます。
詳しい使い方や制限事項については、アプリ内の公式ガイドをご覧ください。
データの信頼性と利便性
OceanGraphでは利用者が安心してデータを活用できるように、厳格なフィルタリングポリシーが導入されています。たとえば、観測データに付属する品質フラグ(QC)を用いて、信頼性の高いものだけを選別しています。
一方で、溶存酸素濃度データについては、センサーの特性上どうしても欠損値や品質のばらつきが多く見られます。これに対して厳格すぎる基準を適用すると使用可能なデータ数が極端に減ってしまうため、利便性とのバランスを重視しQCフラグによる除外は行わず、他の主要変数(圧力・水温・塩分)の品質が良好な場合は使用対象としています。
適用している一連の前処理はApp Guide > 4. Data filtering policyに記載されていますので、正確な情報が必要な方は公式ガイドを参照してください。
活用シーンと可能性
OceanGraphの用途は非常に広範です。たとえば、海洋学や地球科学の研究者にとっては、煩雑なプログラムを実装することなく、信頼性の高い観測データをすぐに可視化・分析できる点が大きなメリットです。教育現場ではリアルな観測データを教材として使うことができ、学生の探究心を刺激するツールとなります。また、研究者や学生ではなくても海に親しみのある人々にとっては、自分が訪れる海域の状況を知るためのツールとして役立つでしょう。
さらに、今後は一般市民向けの環境教育やサイエンスコミュニケーションの一環として、OceanGraphのような可視化ツールの重要性がますます高まっていくと考えられます。
最後に:誰でも海洋データにアクセスできる時代へ
OceanGraphはまだ発展途上のプラットフォームですが、ユーザからのフィードバックを元に日々改善が進められています。今後は、より使いやすく、より深い分析が可能な機能が追加されていく予定です。
以前は海洋データは一部の専門家だけのものでしたが、OceanGraphのようなツールの登場によって、誰でも簡単にアクセスし、視覚的に理解することが可能になりました。海を知ることは地球を知ることでもあります。研究者だけでなく、一般の人々にも海に目を向けてもらうために、ぜひ一度OceanGraphを使ってみてください。
利用方法やデータの詳細については、公式ガイドや利用規約ページをご参照ください。
👉 https://oceangraph.io
※PCやタブレットなどの画面が大きいデバイスでアクセスしてください。
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