私たちは、空の動きや天気には日々敏感なのに、海の中で何が起きているかについては驚くほど無知です。目で見ることも、手で触れることもできない世界──それが海洋です。
しかし、世界中の海を静かに漂いながら、海中の温度や塩分、酸素の変化を記録し続けている存在がいます。それが「Argoフロート」です。地球規模の観測網として長年にわたりデータを蓄積してきたこのネットワークは、実は誰でも無料でアクセスできる公開データです。
とはいえ、データそのものは専門的かつ膨大で、なかなか一般のユーザーが気軽に使えるものではありません。そんな壁を取り払うのが、今回紹介するWebアプリ「OceanGraph」です。
このブログでは、OceanGraphを使って実際にArgoデータを検索・可視化してみることで、「海をデータで見る」という体験がどれだけ面白く、身近なものになったのかをご紹介していきます。
目次
- Argoデータとは?──海洋観測の最前線を知る
- OceanGraphとは?──データ可視化の新しい扉
- OceanGraphでArgoデータを検索してみよう
- いざ、可視化!──OceanGraphの描く海の断面図
- まとめ──OceanGraphがひらく海の可視化体験
1. Argoデータとは?──海洋観測の最前線を知る
世界の海を浮遊する小さなロボット、Argoフロート。これらは水中に潜航して水温や塩分、溶存酸素などを測定し、観測データを衛星経由で地上に送信する自律型の観測機器です。現在ではおよそ4000台以上のArgoフロートが世界中の海に展開されており、海洋観測に欠かせない存在となっています。
この観測網の特徴は、その「グローバルなカバレッジ」と「長期的な観測」です。これにより、気候変動の影響や表層・中層の水塊構造の変化など、広域的かつ定量的に海洋変動を把握することが可能になります。ただし、これらのデータは膨大かつ複雑であり、専門的な知識なしではアクセスや活用が難しいという課題もありました。
2. OceanGraphとは?──データ可視化の新しい扉
「OceanGraph」は、そうした壁を取り払うことを目的として開発されたWebアプリケーションです。専門家でなくてもArgoデータにアクセスし、視覚的に理解できることを目指しています。
検索から可視化、ダウンロードまで、すべてがWebブラウザ上で完結します。登録なしでも基本機能が使え、研究者だけでなく、教育関係者や一般の海洋愛好家にも開かれた設計になっています。
とくに注目すべきは、地図インタフェースと連動した検索、フロートごとの軌跡表示、プロファイルの可視化、そして溶存酸素など特定パラメータによる絞り込みなど、実用性の高い機能が揃っている点です。
OceanGraphはブラウザで今すぐ試せます!
難しいインストールや設定は一切不要。以下のリンクから海の中を“のぞいて”みましょう。
👉 https://oceangraph.io
3. OceanGraphでArgoデータを検索してみよう
実際にOceanGraphを開いてみると、最初に目に入るのは世界地図です。その上でマウス操作だけで対象海域を選択でき、日付範囲を指定することで、期間中に観測されたフロートを検索できます。地図に表示されている範囲がそのまま検索対象となる設計です。

特定のWMO IDを入力すれば、個別のフロートを直接呼び出すことも可能です。さらに便利なのが「溶存酸素あり」でフィルタをかけられる機能で、ユーザにとって非常に有益です。
検索結果は地図上にプロットされ、選択するとそのフロートの概要情報が左側パネルに表示されます。この時点で、すでに「分かりやすい」「軽快に動く」印象が際立ちます。
4. いざ、可視化!──OceanGraphの描く海の断面図

気になる黄色マーカー(フロート位置)を選択すると、その観測プロファイルが表示されます。水温、塩分、溶存酸素の表示はボタンで簡単に切り替えられます。
また、軌跡表示では、フロートがどのような経路をたどってきたのかが地図上に描かれます。特定の海域を流れる海流の様子を、観測の積み重ねから可視化できます。
その他に、水塊の分析でよく使用されるT-S図(θ-S図)やフロートごとの時系列鉛直断面図、混合層深度の表示、機械学習を用いたプロファイルのクラスタリング機能など、海洋の分析に必要な機能が豊富に取り揃えられています。
5. まとめ──OceanGraphがひらく海の可視化体験
Argoデータという膨大な観測資源が、OceanGraphによって一気に身近なものになったことを実感いただけたのではないでしょうか。専門家だけでなく、学生や市民科学者にとっても、こうした可視化ツールがあることでデータを「使ってみる」ハードルが大きく下がります。
これからの科学は、特定の専門知識を持つ人だけでなく、誰もがアクセスし、何かを発見できる時代です。OceanGraphは、そうした未来に向けた一つの「橋渡し役」として、大いに期待できる存在だと感じています。